第六話「田無のアイスコーヒー」
田無のホームを出た電車は、北へ南へ、西へ東へと走っていく。
電車の走行音が響くたび、私の心臓音は高鳴るばかり。確か「もみーな」って、西武新宿線沿いにいくつか店舗があるんだっけ? 武蔵関、井荻、野方、花小金井……。
そんな事を考えて、何とか平常心を保とうとする。
「あの、どうして……?」
どうして今、渡辺君が田無の駅にいるのか。
渡辺君は言った。
「えっと……絶対、困ってると思って」
「……困る?」
目の前で、渡辺君が少し恥ずかしそうに私の目を見る。目が合いそうになると、逸らしてくる。
「先輩、明日までにこの書類、ないと困ると思って」
「……あ!」
私は大きく口を開きそうになる。
……ごめん。ちょっと待ってね。色々と分かんないよね。
わかった。順番に説明するね。
まず、今、目の前に立っている渡辺君……そう、渡辺君。
仕事が出来ない、あいつ――あいつの名前、渡辺君っていうの。
ごめんね、紛らわしくて。私も今、何かざわついてる。だって、さっきまで渡辺君に似た人にマッサージをしてもらっていて、それで今、「渡辺君」がなぜだか田無にいるから。
突然の出来事だったから、びっくりしちゃった。
「わざわざ、届けに来てくれたの?」
「はい!……」
確か一度だけ、こいつを田無に連れてきた事があったっけ? あいつが入社一年目の、まだ可愛いって思ってた頃。今は、イライラとさせられるばかりだけど。
コーヒーはブラックで飲む派ですか? それともガムシロは入れますか? ミルクは入れますか?
何とでもなることを、あいつはいちいちと真剣に聞いてくる。オフの日に、あいつにため息をつかされる。まあでも、せっかく田無まで来てくれたんだし、しょうがないか。大事な書類もわざわざ届けに来てくれたわけだし。
私たちは、近くの喫茶店に入った。
「あ、あの!……」
また、あいつが話しかけてくる。店員さんがアイスコーヒーを二つ、テーブルに乗せたタイミングで。
「あ、あの!……」
「なに?」
いつものくせで、イライラする。言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ。
「僕と、お付き合いして下さいませんか?」
アイスコーヒーをテーブルに置いた店員さんが、こっちを見てくる。
「僕と、付き合って下さい!」
店員さんが気まずそうに、足早に去っていく。
「……え!」
何も考えられなかった。
取りあえず今度もみーなに行ったら、小島さんに聞いてみよう。
こんな時、どうしたらいいですか……?
(続く)
トライアル・コース概要
もみーなご来店初めての方
全身50分(足つぼ付き) 3900円(税込)
全身疲労、首コリ、肩こり、腰の疲れ、足の疲れ……
是非、お試しください!