第四話「小島さんと渡辺くん」
「なるべくは、同じスタッフにやってもらった方が、いいんですよね? 体の状態とか、分かって貰えてるし。前回に残った部分? そこをほぐして欲しいので……」私が訊く。
「まあ、そうですね」大和田さんが答える。
何かと、言い訳をつけて指名をした。少し照れ臭かったから。電話をした後しばらくは、指名をした緊張感が抜けなかった。
前回に残ったコリをほぐしてしまえば、その後は、ある程度間隔を空けても大丈夫。前回、小島さんにそう言われた。なら、今日しっかりとほぐしてしまえば、しばらくはほぐれた状態を維持できる。つまりはそういう事。
それにしても、指名料というものを取られないのが、「もみーな」のいいところ。
今日も前回と同様、きめ細かな施術が私の疲労を取り除いていく。
「ごめんね……」
ふと、小島さんには聞こえないくらいの声で、私は小さく呟いた。これは、ずっと言いたかったこと。成人式の日、勇気を出せずに言えなかった言葉――。
渡辺君と付き合って、逃げ出したのは私だった。渡辺君は皆の憧れだった。何人もの女子が彼に告白をしては、無残にも涙を流していった。その光景を、私は何度か見ていた。渡辺君が私と付き合う前に交際していた女子は、学年が一つ上の先輩だった。チョウゼツ美人の。
それをごく普通の、スクールカーストでいえば、ちょうど真ん中くらいに位置する私が、彼と付き合う事となった。
羨望のまなざし、嫉妬の目に、いつしか私は耐えられなくなった。
「そんなの、気にしなくていいよ」
渡辺君はそう言ってくれた。
「力加減は、大丈夫ですか?」
「はい」
小島さんの、低く安定した声。あの日の渡辺君と声が重なる。渡辺君は、優しく声をかけてくれた。でも、苛立ちは増すばかりで――。
少し被害妄想が強い私は、誰も信じられなくなった。
もしかして渡辺君、私のこと弄んでるんじゃない? 私の心を弄んで……。私は自分を守ることにした。彼を信じるのが怖くなった。
「試しに俺と付き合う? あれってどういう意味?」
「え?」
最初から、馬鹿にしてたんでしょ!
ある日の帰り道。私は彼に怒鳴ってしまった。私と渡辺君の家は、学校からは全くの反対方向。でも、彼は毎日私の家までついてきてくれた。
「違うよ、あれは別に、意味なんてなくて……」
彼は弁解する。渡辺君は私のことがタイプだった。穏やかな所とか。だから告白した。ただ、それだけ。でも、私の心中は穏やかではいられなかった。
「では今日は、このように施術いたしました。お疲れ、取れましたか?」
「はい。すごく楽になりました!」
そう答えながら小島さんの目を見て、私は心の中で呟く。
ごめんね――。
周りの目を気にして、あのとき君を信じようとしなかった。ごめん……。
(続く)
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