第三話「電話」
朝の新宿はテンションが低い。西武新宿駅を降りて、小田急線乗り場まで歩く。私はガード下を歩く、群衆の一部となる。
満員電車に疲れる朝。だけどこれは、一日の始まり。
いつもなら吊革につかまって、スマホを見てはあくびをし、缶コーヒーを買っては一日に挨拶をする。だけど今、私の目はパッチリと開いている。
昨日のマッサージ、とても良かった。色んな意味で。そう、色んな意味で……。今、肩と首はずいぶん楽だ。パソコン画面とにらめっこをして、出来ないあいつを睨み付けて。
そんな毎日の疲れから、「彼」は解放させてくれた。
普通の、ごく一般的なOL。一般的な事務系の仕事。商業高校を出てから、今の会社に勤め続けてきた。
上からの指示で、私は下受け会社に発注をかけたり、書類を整理したり。
いつも、何考えて生きてるんだろう、私。
自問すると、分からない。自問なんて、したこともないけど。目の前の事に、一生懸命なことは確かだけど。
「ちょっと! 太田会社の資料集まってる?」
「は、はい!」
あいつ――。絵にかいたようなドジッ子。
「ちょっと、これ違うんだけど!」
「え!?」
また、ため息をつく。会社の社長は変わっている人だから、だから彼は入社できたんだろうか。皆、噂してる。あいつは仕事は出来ないけど、愛嬌と真面目さはあって。きっと社長はそういうところを気に入ったのだろう。
世話係を任されて、私の疲労は蓄積するばかりだ。だけど今日は、いつもと違っていた。
体にコリが出来れば、またあの人に会える――。
いつもは肩コリが気になると、それがストレスになっていた。でも、今はどうだろうか。肩コリを待ち望んでいる私がいる。おかしな話ね。だけど、人って不思議なもの。こういう時に限って、体は健康なの。
ほとんど肩コリが気にならない。
確か、貰ったクーポンは一か月半先まで使えると言われた。安い価格なら、渡辺君、いや小島さんにまた……。
一週間が過ぎた。私は、自宅でスマホを握りしめていた。こんなにも電話を持つ手が震えたのは、いつぶりだろう。初めて、渡辺君に電話したときか。親に買い与えてもらった、初めての携帯電話で――。
「あの、予約をしたいんでけど……」電話をかける。
電話の相手は、「大和田」と名乗った。明るく陽気な声だった。
「担当スタッフのご希望は、おありですか?」
大和田さんが聞いてくる。そして私は言うのだ。
「小島さんで、お願いします」
(続く)
トライアル・コース概要
もみーなご来店初めての方
全身50分(足つぼ付き) 3900円(税込)
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